「業界人」という表現があって、マスコミや広告業界、あるいは芸能界辺りのイメージだったのだろうか。いわゆる「業界ことば」といえば、その辺りの業界を指すわけで、なんとなく一般化した。
「パイセン」とかはSNSでもよく見るけど、この手の言い回しは、最近の業界人はあまり使わないようにも思う。まあ、広まり過ぎたんだろうな。
ただ、最近でもメディアや広告まわりの業界では、「ちょっと違った言い回し」というのは。たしかにある。
この間、ふと気づいたんだけど、こんな感じ。
「あの、映画見た?」
「見れてません」
「見れてません」じゃなくて、「見られてません」が正しいだろ、とかそういう話ではない。まあ、「見れて」は誤用だと思うが、そこじゃない。
どうして「見てません」じゃなくて、「見れてません」と「可能(不可能)」の助動詞をつけるのか。つまり「自分の意志で見てない」のではなく、「見たいけれど何らかの事情で見ることができない」というニュアンスなのだろう。
そして、「見ることできない」事情のほとんどは「忙しい」からだと推察できる。
「実は先週アニサキスの中毒で、七転八倒で映画どころじゃなかったんです」そんな話になることは滅多にない。
というわけで「ホントは見なきゃいけないんだけど、忙しいんですよ、お察しください」という言い訳を一瞬で行っているんじゃないか。
だから「見れてない」と、いうわけだ。
この言い回し、実は僕が会社員の頃からあって、今世紀初めくらいには多用されてた。
「あの、レポート読んだ?」と聞かれた部下が
「すいません、読めてないんです」
この一瞬で「そうか忙しいんだな」と察してやるのが一応大人の礼儀である。仮に、彼が昨夜早々に帰って夜中まで遊んでいたことを知っていても、まあ、それは言わない。
というわけで、広告やメディア業界の人はこうした「自己防衛スキル」に妙に長けている。昨年話題になった「ほぼほぼ」も、業界では相当昔から多用されていた。
これには、こんな背景があったと思う。
営業がクリエイターのところにやってきて
「あのポスター、ほぼOKなんですが……」
「で、どこか直すの?」
「キャッチコピーだけ変えてくれって、得意先が……」
「どこが“ほぼOK”なんだよ!!」
というわけで、予防線を張ってより慎重な言い回しになったんじゃないか。
「あのウェブページ、ほぼほぼOKなんですが……」
「で、どこか直すの?」
「メインビジュアルは写真じゃなくて、イラストを起こしてほしいと……」
「どこか“ほぼほぼOK”なんだよ!!」
おそらく、事態はあまりかわっていないのであった。