デジタルインテリジェンスの横山隆治さんが昨年来書かれている著作は、「デジタル=ネット」という狭義の発想を超えて、マーケティングことにメディアプランニングの分野の知見を一新する連作になっていると思う。
今回ご恵送頂いたのは、「届くCM、届かないCM」という新刊で、大橋聡史氏、川越智勇氏との共著となっている。そして「効く」ではなく「届く」というあたりがポイントだ。
目の前に映る映像や、耳に入る音声は本当に「届いて」いるのか?網膜や鼓膜を刺激しても、大切なのは「アタマ」に届いて残ることではないか?という視点での問題提起だ。
だから記憶から情動、そして行動までを見通すための指標として「注目量」の指数である、GAP(=グロス・アテンション・ポイント)が提唱される。
視聴率だけを積み重ねていたGRPという指標は、誰が聞いても「それでいいのか?」という感じではあったものの、相当に長生きしてきた。ただし、そろそろ引退されてもいいのではないかと、一連の著作を読んで実感する。
横山さんたちの手になる本は、『新世代デジタルマーケティング』(紹介はこちら)で、メディアプランニングの全体像をあきらかにして、 『リアル行動ターゲティング』(紹介はこちら)では人の生活に密着した手法を提唱した。
このあたりでは、どちらかというと、「人と情報の接触効率」に重きを置いていたけれど、『CMを科学する』で「視聴質」の概念を提示して、一気にクリエイティブの領域にも踏み込んで来た。そして今回の著作はまさに広告ものづくりの現場における思考スタイルに大きなインパクトを与えるだろう。
この本では、演出の巧拙やナレーションやスーパーの効果まで、実に具体的に検証されている。そして「男CMと女CM」のように、長年クリエイターを悩ましてきたテーマにも大切な示唆がある。
もちろん、大手広告代理店でも同様の発想の研究はおこなわれて来ていると思うが、このように著作として「世に問う」ことで大きなうねりになっていくはずだ。
昔は、「広告はアートかサイエンスか」という問いを発する人もいたが、「アートでありサイエンスである」と考えることが当たり前になったと思う。
そして、サイエンスの充実は、アートを束縛するものではない。こういう本を読んで、「クリエイティブがつまらなくなる」と思ったらそれは読解不足だろう。
サイエンスの基礎工事がしっかりするほど、その上で展開されるクリエイティブは自由度を増すはずだ。
すぐれたクリエイターになら、「アイデアに専念できる」と喜ぶだろう。そして、コピーライターの重要性はさらに増すと思う。映像や音声の認知構造が明らかになれば、「何をどう言うか」が広告の差になるからだ。
誠意のある広告人にとっては、いい時代になったのだとつくづく思う。