折角だから、あと1回くらい今年の本を書こうと思って、最後はアート&音楽篇。
音楽については、以前紹介した『武満徹・音楽創造への旅』(立花隆/文藝春秋)が戦後文化史としても出色だった。
もっと間口は狭い感じがするものの、読みやすくて面白かったのが『マーラーを語る 名指揮者29人へのインタビュー』(ヴォルングガング・シャウスラー/音楽之友社)だ。
アバドからジンマンに至る29人の指揮者に、マーラーの音楽について尋ねていくという構成だ。
マーラーが好きで、いろいろな指揮者を聞いている人にとってはもちろん興味深いと思うけれど、このインタビューはマーラーを通じて「指揮者の思索」を浮き彫りにしているところが面白い。
つまり、「ああ、結構深く考えているんだな」とか「意外とアホだなこいつ」のように、指揮者のアタマの中を開いて覗いているような感じもするのだ。
個人的に面白かったのは、バレンボイムとブーレーズ、あるいはマゼールなど。カラヤンのことを語るアバドや、そのアバドからの薫陶に感謝するドゥダメルなど、指揮者同士の出会いや影響を知ることもできる。
ちなみにブーレーズによれば、マーラーの音楽素材は「葬送行進曲、軍隊行進曲、レントラー舞曲、それだけ」ということらしい。まあ、そうかもしれないけど。
音楽、ことにクラシックが絡む小説は珍しく、「のだめ」のようなケースがあるけれど、マニアックにニヤリとさせられるのが『不機嫌な姫とブルックナー団』(高野英理/講談社)で、これも紹介したけれど意表を突かれた作品だ。
コンサート会場で出会った1人の女性と、オタク男子三人組。共通点は、ブルックナーが好きなこと。そこから始まる交流と、ブルックナーの生涯を巧みに重ねていくのだが、想像以上に引き込まれる。
想像以上にいい作品だった。キーワードは「不器用」かな。
アート関連、というか「アートを題材にした知的探求本」とでもいうのが『観察力を磨く 名画読解』(エイミー・E・ハーマン/早川書房)だ。
有名な芸術作品をテーマにして、人間の認知についてのさまざまなケーススタディをおこなっていく。著者は弁護士で美術史家であり、話題も広い。ミケランジェロのダビデ像を、角度を変えて眺めるとどうなるか?というテーマの後で、現場主義の大切さの事例としてトヨタの「カイゼン」の話を書いてきたりする。
いわゆる名画解説事典とは全く異なるが、美術鑑賞などの習慣がなくても、「絵は嫌い」という人でもなければ十分楽しめるし、アートに触れるきっかけになるかもしれない。
そういえば最近、『芸術新潮』を定期購読している。特集の切り口が単なる芸術解説にとどまらずにおもしろいが、印刷が素晴らしいなあと毎回思う。
最新の12月号は「永遠の美少年」だが、北斎、ダリ、クラーナハ、若冲と展覧会連動や、旧約聖書や日本の神社などの企画ものも楽しい。
これと『ナショナルジオグラフィック』が、現在の我が家の定期購読雑誌になっているけど、両方とも紙メディアの価値を感じさせてくれる数少ない雑誌だと思う。