トランプの「ロボット制限令」という妄想。~『人間さまお断り』はAI本の白眉
(2016年12月5日)

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71yexlkwial経済産業省が、実証実験として国会答弁をAIに下書きさせるというニュースがあった。SNSに記事をシェアしたら「虚構新聞か」という声があったが、妻は「星新一にありそうだ」と言っていた。

僕が気になるのはとても単純なことで、あんな答弁のような文章を学ばせたら、AIがダメになっていくんじゃないか。そのことに尽きる。

新年早々に、囲碁の勝利に始まりAIというのは実質上の「流行語大賞」なのではないかと思うが、「答弁AI」で何となく年末のオチという感じになってしまった。

とはいえ、AIを巡る本なども多く、その殆どは「未来」を論じるものだ。しかし、哲学的な深い考察がなされているものは、早々多くはない。

僕が読んだ中でお薦めしたいのは、この「人間さまお断り」だ。著者のジェリー・カプランはスタンフォード大学の先生であり、多くの企業にも関わった人である。

AIの入門書としては松尾豊氏の「人工知能は人間を超えるか」がお薦めだが、その松尾氏が帯にメッセージを寄せている。

「驚いた。文句なく、ここ数年で読んだ人工知能に関する書籍の中で最も感銘を受けた」ということだけど、この本は単なる予測や煽りではなく、AIの本質を突いていると思った。

たとえばロボットが「犯罪」を犯した場合はどうなるんだろうか?というお話。

街で男女のつかみ合いをみたロボットが、女性が危険だ!と判断して男性を取り押さえた。ところが実際は、夫婦どちらかが運転するかでもめていて、キーの取り合いをしていただけであり、ロボットが暴行罪で逮捕されてしまう!

弁護士はメーカーの責任だというが、メーカーには予測不能だと主張。前例を探した判事は、18世紀以前の「奴隷制における使用者の責任」の判例を探す。そして、ロボットのメモリ消去と、原告のもとで12か月の留置処分になるというストーリーが描かれる。

これなんかは、笑えるようでいてAIと人間の本質を抉っているいい例だけど、こんな感じで描かれる未来の話はとても多層的だ。

いわゆる「仕事がなくなる」ことについても、議論がなされている。

で、ここから先は僕の妄想なんだけど、米国次期大統領のトランプ氏は「ロボット制限令」でも出すんじゃないだろうか。就任前から、米空調大手キヤリア社のメキシコへの工場移転を阻止したくらいだ。

一部には、トランプの敵は「ロボット」という指摘もあったが、「敵」はつぶすのがトランプ流なんじゃないか。「雇用を奪うロボットを使う企業には増税」とか言ったら、彼の支持者はすぐに支持しそうだ。

AIのライバルは、意外なところにいるように思う。