「ハドソン川の奇跡」という映画の邦題が、原題と相当違うということが話題になっていた。原題は「Sully」で主役となる機長の愛称らしい。このままでいいのか?と思案するのはよく分かるが、観た人によっては違和感を感じるという。
映画の邦題は、この辺りが悩ましい。原題でも「スターウォーズ」のような感じだったら問題ないのだが、英語文化の文脈でしかわからないものもある。
じゃあ、オペラだとどうなんだろう?これは基本的には「そのまま日本語」か「そのままカタカナ」だ。
「フィガロの結婚」とか「セビリアの理髪師」のようにいくか、「アイーダ」や「ラ・ボエーム」のどちらかになることが多い。そのまま訳して、かつ短い造語にした「魔笛」というのもあって、これは見ただけでピンと来る。ちなみに「椿姫」はオペラの「トラヴィアータ」ではなく、小説原題を訳している。
まあ、タイトルでヒットを狙おうという業界ではないのだから当然なわけで、古典小説のタイトルと同じような感じだ。
ただ小説でも「あゝ無情」「巌窟王」のようなものもあって、さすが黒岩涙香は興行師的感覚があったのだろう。まあ、さすがに近年は「レミゼラブル」だ。
で、オペラ邦題の傑作を挙げるとすると、ウェーバーの「魔弾の射手」だろう。オペラだけじゃなくて、さまざまな海外作品の「邦題NO.1」だと思う。
射撃大会を控えた主人公の狩人のマックスは、恋人アガーテの結婚を控えているが、絶不調。彼女の父からは「ダメだったら結婚わからんぜ」と言われてる。しかも彼は上司の森林官。
「このままでは出世も結婚も……」と思い詰めた小市民的森の狩人は、友人にそそのかされて悪魔の弾丸を手に入れる。
この原題は「Der Freischütz」、英語だとFree Shooterでなんかサッカーの技のようだが言ってみれば「自在な射手」となる。
このままだと、あの空間の雰囲気は伝わらない。劇中のFreikugelつまり「意のままに操れる弾」に着目して「魔弾」としたのだろう。魔笛の例もあるとはいえ、魔弾というのは見ただけでピンと来るところが凄い。
この系譜の傑作造語は、野球漫画の「魔球」なんだろうな。
ちなみに、全曲ディスクはクライバー指揮が序曲からして最高のキレがある。また、ウェーバーの他の序曲なども収めたクレンペラーのディスクも楽しい。ずっしりしているのに、クリアな響きがして聴き飽きない。
それにしても「魔」の字に飛び道具の文字をつけるとたしかに迫力あるよな、と思って考えたけど、そもそも日本にはそういうものがあったじゃないか。
「破魔矢」だ!ちょっと意味合いは違うけど、「魔弾の射手」と訳した人のアタマの中には、そのイメージがあったのかな?