ヴィトンの旅、ヴィトンとの旅。【ルイ・ヴィトン展@TOKYO】
(2016年6月16日)

カテゴリ:世の中いろいろ

IMG_1712ルイ・ヴィトンについての強烈な印象は、18年前のロンドンのホテルだ。

ちょうど今頃だったが、エントランスにフェラーリが止まっていて、それだけなら驚かないのだが、ナンバープレートがアラビア文字だったのだ。

聞いたところによると、中東からバカンスのご一行が来ているらしい。

やがて、一人だけ民族衣装に身を包み、他はスーツという「大名行列」がロビーを横切っていった。

そして、その列の最後に高く積まれたルイ・ヴィトンのバッグがワゴンに乗せられて静々と動いていく。これが「正しいルイ・ヴィトン」なんだな、とつくづく感じた。

ちなみに、この旅はダービーがきっかけだった。スペシャルウィークとボールドエンペラーのおかげで相当の収益を得たので、敬意を表して英国に行くことにしたのだった。

昨日、麹町の「ルイ・ヴィトン展」を見た。一貫したテーマは「旅」だ。そして、ルイ・ヴィトンの機能性と革新性を前面に押し出した展示だったと思う。

「日本からのインスピレーション」などは、まあ「ご挨拶」といったところだろう。そういう意味で、印象的だったのは「ドライバーズ・バッグ」だ。

不愛想な円筒形のケースが陳列されていて、これがタイヤを入れるためのものだという。モータリゼーションの黎明期にも、常に「旅に寄り添う」ブランドだったのだ。海へ空へと、展開されていくが根底にある合理性が強烈だ。

僕がルイ・ヴィトンの製品を初めて購入したのは、会社を辞める時だ。パナソニックのR3という最小サイズのノートPCを手に入れて、着々と独立の準備をしていたのだが、どうしてもバッグが決まらない。

リュックタイプを探していたのだが、その当時はまだまだカジュアルな製品ばかりで選択肢に乏しかった。スーツに合うようなものは殆どない。

そんな中で、表参道のルイ・ヴィトンで出会いがあった。ところが、気に入った色は銀座にあり、これが日本における最後の一点だという。

取り置くようにお願いして、銀座に行った。もう「これしかない」と思っているのだが、やはり躊躇する。6桁のバッグなど買ったことがないのだ。

その場で買うのはあまりにも気が引けて、さらに一週間待ってもらうことにした。いまにして思うと儀礼的なものだったが、即決は気が引けたのだ。

3日ほどして、「この決断は決して間違ってない」と言い聞かせて、店まで行った。想像以上に大きな紙袋を持って銀座を歩くと、結構人目が気になったことを憶えている。

あれから12年経って、そのバッグは健在だ。一度相当の補修をしたけれど、それでまた愛着も湧いてくる。

もちろん安くはないが、決して割高ではない。

このバッグは、旅に出られるほどのサイズではない。だから、一泊もしたことがないと思うと、ちょっと不憫だ。

でも、会社を辞めてからの長旅にずっと付き合ってくれている。そう思うと、ちょっとだけジンと来る。

ヴィトンの旅は、空間の旅だ。そして、ヴィトンとの旅は、時間の旅でもある。