アベノミクスとプライミング
(2013年3月21日)

カテゴリ:マーケティング
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先般、知人がコンビニで久々に女性誌を手にしたら「驚くほどズッシリ重かった」と言っていた。金融危機の後、雑誌広告が急減して「軽い雑誌」が増えていたことはたしかだけど、その後の「アベノミクス効果なのかな?」と言ったのが、おもしろかった。
こういう話を、最近よく聞く。飲食店が混んでいても、タクシーがつかまらなくても「アベノミクス?」と思うようだ。
ただし、この「アベノミクス」はコンセプトが提示されただけで、まだ何もおこなわれていない。
いわゆる「プライミング効果」のような一面があるように思う。
プライミング効果、というのは心理学の実験などで実証されている。あらかじめ、特定の先行刺激を与えると、それが「呼び水」となり、あとから受けた情報と関連付けてしまうというものである。
テキストにも取り上げられているものに「ピザと10回言って」という遊びがある。「ピザピザピザ…」と10回言ってもらったあとに「ここは?」と肘を指すと、多くの人が「膝」と答えてしまうものだ。「ミリン」とか「シャンデリア」とか「平山」とか、バリエーションがあったと思う。
アベノミクス、というのもよく分からないままに言葉だけが先行した。ただし、円高修正や、株高になったので多くの人は「アベノミクス」と関連付ける。先の話で言えば、女性の広告出稿は昨年から回復していたらしいので、あまり関係はないだろう。
でも、人々はわかりやすい文脈をつくってしまう。


ちょっと前だが2010年の冬季五輪で、女子フィギュアスケートで韓国が優勝した頃に、サムソンの業績が注目されて日本企業が悪かったことがあった。
この頃は、あちこちで「日韓逆転」のような論調が見られていたと思う。
ところが、数カ月後にサッカーのW杯で日本が予選を突破した。そして、ちょうどその頃、「はやぶさ」が帰還すると、「まだ日本は頑張れる」という空気が強まった。
スケートと電機産業、サッカーと宇宙探査機。まったく関係がない。
どうして2年前の話を書いたかというと、この頃から一方向への文脈づけが急速におこなわれて、それが短期間で別の方向にサーッと流れていく傾向が顕著になったと思うからだ。
SNSの発達、それもtwitterやfacebookのようなスピード感のあるメディアが増加したことが関係しているようにも思う。
それをマスメディアが、「まとめる」ことでフォロワーに一気に伝わるというパターンが増えてきた。
3/10の関東で起きた「黄砂騒動」も同じような感じだった。いきなり空の色が変わって、皆が一斉にネット上で「黄砂?」と大騒ぎ。中にはPM2.5を連想する人もいたけど、それまでのニュースで十二分に先行刺激を受けていたので、ある意味わかりやすいプライミングだったというわけだ。
いずれにせよ、一時的かもしれないが日本人の中で「不安」は、縮小していると思う。桜の開花だって、こんなに早いと「やっぱ異常気象か」という声も出ていたものだが、今年については単純に春を喜んでいる人が多いように思うのだ。単にfacebook眺めていても、空気感はかなり変化している。
もっとも、こうした文脈は逆回転になるとこれもまた速い。政治もうまく回っているようだけどデリケートな問題も多い。夏の選挙まではいろいろな所で神経戦が続くように感じている。