「事実上」って、何なんだろう?
(2016年2月9日)

カテゴリ:世の中いろいろ

「事実上のミサイル」が発射された。

ではミサイルとロケットの違いって何なんだ?という話を今回はネット上でも結構見た。諸外国がどう言ってるのかを含めて、こちらの記事に書いてあるが、そもそも国連がミサイルと言い切っているようだ。

英語圏のメディアを少し調べたが、ニューヨークタイムズは「大陸間弾道弾開発プログラムの一部と西側専門家が信じているロケット」という言い回しで、CNNは’missile’と引用符付きで報じている。この辺りが「事実上」のニュアンスに近いのかもしれない。

しかし、考えてみると「事実上」という日本語も妙だ。調べてみると「法律上」の対義語ともあるが、この場合は違う。

どちらかというと「ご承知の通り」という感じだろうか。

ただ、事実というのは「表」の話だ。だからこそ、真実や真相というのが「裏」となっている。しかし、今回は表がロケットで、裏がミサイルという感じだ。

つまり、どこかで裏と表が逆転したというか、最初から裏も表も透けてしまっているわけなんだろう。

考えてみると、今年に入ってからのニュースってこんな感じだ。

「人気タレントの不倫発覚スクープ、事実上の近親者による暴露がおこなわれました」

だとすれば、もちろんあれだって。

「人気男性アイドルグループの謝罪会見、事実上の脱退阻止の経緯説明がおこなわれました」

だとすれば「大臣は現金授受、事実上の謎のトラップにより辞任しました」となるし、「覚せい剤所持容疑、事実上の長期使用により逮捕されました」でもいいんじゃないかと。

ここで「事実上の」というところを、「実のところは」とかに入れ替えてもらえばスッキリする。

もはや、「表」で報じられていることはすべて「裏」とセットになっている。マスメディアが表だけ報じても、すかさず裏の解説や憶測が流れて、しかも裏の方に真実性が高い。だから、結果としてそちらが「事実」になるという倒錯関係なのである。

最近のスキャンダルは週刊誌発が多いけれど、「何かを発見する=discover」というより、最初から裏が透けているような構造だ。

だからこそ、事実をズシンと突きつけるような報道が価値を持つ。最近見たものでは、ニューズウィークの写真特集「不法移民から没収された大量の私物は何を語る」が強かった。ベルト、歯ブラシ、サングラス…。だからどうするべきか、とは書かれてないがモノを考える起点は、事実しかない。そんなことを痛感させられる記事だった。

そうした事実の重さを伝える報道が少ないからこそ、みんなが裏を読みあう。成熟と言えばそうだろうけど、それは頽廃とほぼ同義ではないだろうか。