昨年12月にこちらでも紹介した「リアル行動ターゲティング」を共著で上梓された横山隆治氏が、ほぼ同時期に出版したのがこちらの一冊だ。知己の著作はその旨を明らかにした上で書くことにしているが、前作と同様にとても重要な本だと思っている。
前作は「リアル行動」という言葉を関してはいるが、「最新ターゲティング実践」のような側面がある、そして、この本は「初の実践的メディアプランニング」の本と言ってもいいだろう。
マーケティングの書籍は多いし、実践的なケースも書かれるようになった。商品やブランド開発、あるいはコンテンツ創造などのケーススタディは多い。アカデミックなものから、読み物まで幅広く存在している。
その一方で、メディアプランニングについて書かれた書籍は、どことなく雲をつかむ感じのものが多い。ちょっと古いが「メディアミックス」という説明があったとする。それぞれのメディアの特徴はあっても、ミックスの仕方はわからない。果物の成分表は明らかだけど、ミックスジュースのつくり方は秘伝のレシピのようになってしまう。
これは、メディアビジネスがアタマだけではどうしようもない、という側面があるからだ。大学生にレポートを書いてもらえばわかるのだが、「広告の企画」というのは人によってはプロ並みのモノもできる。コピーやデザインは、そういうものだ。
でもメディアプランニングは、そういうわけにいかない。すごいアイデアがあっても実現のためには、おカネが関係してくるし、カネがあっても実現できるとは限らないからだ。
そんなわけで、メディアプランニングはいつまで経っても、「一子相伝の秘技」のようになってしまうんだが、電派とか博流とかあるわけなんで、あながち間違った喩えでもないとは思う。
本書は、その辺りについて相当切り込んでいる。ことにTVCMのターゲット別リーチなどは「ここまでわかるのか」と改めて感じるし、ネットとの補完などの具体策を見れば、メディアプランニングの潮目が変りつつあることが理解できるだろう。
すべてが公開されているわけではないが、「ここまでわかる」ことが掴めるのは大きい。また、世帯視聴率はもちろん、個人視聴率の限界もよくわかる。以前から思っていたが、巷の「視聴率批判」というのは、「偏差値批判」と同じような思い込みが多いこともあり、「視聴質」定義にしても、実用的な視点でようやく語られるようになっている。
また、組織論についても言及しているが「ブランドマネジャー制度」が限界にきていることには同感だ。2000年前後に増えた制度だが、「ブランドに責任を持つ」といっても、何に責任を持つのかが分からなくなっている。「ブランディング」が脳内思考実験になる一方で、コミュニケーションとかい離しているのだ。
そして、この本が唱える「コミュニケーションの最適化」は社会全体にとっても、とても意味がある。テレビ広告は約2兆円の市場だが、これはもちろん企業のからのカネだし、それは消費者が支払ったものだ。
民放は無料で見られるので意識は薄いかもしれないが、その費用を払っているのは視聴者だ。単に経済後退で広告費が減少すればテレビの番組は貧相になるかもしれない。ただし、現状のメディアプランが効率化すれば、それは広告主の利益になり、やがて消費者に還元されるだろうし、社員にもプラスになる。この図にある2つの「?」がどうなるのかは、相互に関係しているのだ。
つまり、コミュニケーションの「ムダがないあるべき姿」を追求することは、社会的にも意味があることだし、それがマーケティングの使命でもある。この本は、単なる効率論を見せているのではなく、そうした本質を説いている。とくに、事業主の方にはお勧めしたいと思う。