デジタル・インテリジェンスの横山隆治氏には、毎年青山学院大学でゲスト講義をお願いしている。今年は、新刊の「リアル行動ターゲティング」(横山隆治・楳田良輝共著/日経BP社)の内容からも最前線のお話を頂き、ちょうど発行後だったので一読したのだが、たいへん興味深いので紹介しようと思う。
表紙には「人の興味関心はネット上の検索・閲覧だけではない」とあって、そのために「リアル行動」が「空間把握」と同義に感じられるかもしれないが、それはちょっと異なる。
もちろん、スマートフォンなどの普及で空間情報の詳細な把握は可能になったが、この本は「位置情報ターゲティング」ではない。
「時間・空間」を含めた「人間行動のすべて」をつかもう、という趣旨である。
そのためには、マーケティングにおいて「意識」と「行動」の関係をどう捉えるか?という視点をもう一度確認しておく必要があるだろうと思い、僕なりに論題を整理してみた。
このチャートは相当簡略化しているが、人の行動は何らかの意識に基づいておこなわれる。
その時「ああ、喉が渇いた」という意識で、「水を買う」という消費行動に至ることもあるだろうが、日常の行動はもっと複雑だ。
一日の行動を振り返ると、「今日は何をするぞ」という意識からいろいろな「リアル行動」が起きる。そして、一方でさまざまなメディアに接触する「メディア行動」もある。※
その日の天候が気になるなら天気予報を見るし、昨夜のニューヨーク市場が気になれば経済ニュースを見る。
そして、どこかに出かけてそこでランチを探すために、マップを検索することもあるだろう。つまり、リアル行動とメディア行動は相互に影響しあっていることになる。
で、この「意識」と「行動」の関係は、こう見ると当たり前のようでいて結構議論をすると深くなる。たとえば「これ買いたいか?」という調査は「意識」を尋ねているのだが、その通りの売り上げ、つまり「行動」に結びつくとは限らない。
一方で売り上げのような「行動」ばかりを追っても失敗はある。売れてるからといって、消費者が満足しているとは限らない場合、入念に不満をくみ取った新製品が市場を席巻することもある。
ただし、最終的に大切なのは購買という「行動」だ。本書では、そこに至るまでの人の行動が、想像以上に精緻につかめるケースが紹介されている。
そして、いかにターゲティングが机上の空論になりやすいか?ということも実感する。今日、朝から自分自身が何を考えて、どんな情報に触れて、そしてどんな予定を組んだか?を思い出してほしい。人の欲求は刻々と変化する。そして、その変化を捉えているのが、ネット上のデータであることがわかるはずだ。
本書は、広くターゲティングを解説していて、特定メディアのためのテクニカルな本ではない。そして、この本を読むと、「では、その行動でどう意識が変わるのか?」という疑問を持つはずだ。
「旅先で、何かおいしいものを食べた人」は、次にどのような行動を起こすのか?それを自ら考えて、再度「意識」を考える。このグルグルとした循環思考こそがターゲティングの醍醐味なのである。
※このチャートは議論をわかりやすくするために簡略化しているが、本書では「マス、リアル、ネットの3領域」としている