一か月ほど前だが、クルマで一人旅をした。妻が義父母を連れて小旅行に行ったので、そこから戻るタイミングで愛知の方へ行こうと思ったのだが、折角だから寄り道をしようかと。
東京から名古屋に行くのは、普通なら東名高速だが、寄り道をするなら断然中央高速沿いの方が面白い。南信で1人で泊まれる宿を探して、木曽福島辺りと迷ったのだが「大鹿村」を目指すことにした。諏訪で高速を降りて、あとは152号線をひたすら下る。
途中で高遠という町を抜けるのだが、ここは蕎麦が有名のようなので、だいたい行程は決まった。出発は10月の最終金曜日。天候はまずまずだ。
9時過ぎに、1人で中央高速を下っていく。相模湖から談合坂の坂を登り笹子をくぐって長い下り坂。勝沼を過ぎた頃から道も空いて来て、順調に諏訪で降りる。
間もなく一つ目の峠で、「杖突峠」というわかりやすい名前。眼下に諏訪を一望する展望台で休み、一気に高遠へ。下調べはしたのだが、蕎麦屋の看板が見えてちょっと気になったので衝動的に飛び込む。
高遠の蕎麦は、普通のつゆもあるが、味噌だれが名物。すり鉢に味噌を溶くようにつゆを混ぜていく。混ぜることを前提にしてバランスをとっているので、決してくどくはない。折角だからと、もう一軒はしごしてもり蕎麦を食べた。信州の蕎麦はこの10年くらいでつゆがキリッと洗練されていると思うけれど、高遠の蕎麦は相当にうまい店が揃っているようだ。
紅葉の高遠城址を歩いて歴史博物館へ。ここは池波正太郎「真田太平記」の冒頭の場面だったなあと思い、帰りがけに係員に話しかけたら
「え?そうなんですか?」と驚かれた。
kindleで購入したことを思い出して、見せたら驚いてる。「来年大河だし、そりゃなんとかしなくちゃ」と言っていたが、知らなかったことにこちらが驚く。結構ベテランの人だったんだけど。今頃どうしてんだろう。
そして、ここからが一段と険しくなり、「分杭峠」を超えていく。紅葉が鮮やかだ。日光や京都など、わざわざ人ごみに紅葉を観に行く気にはならないけれど、こうした峠の偶然の出会いには、思わず驚く。
そしてこの峠の近辺は相当に道が細い。出会いがしらで、どちらかがバックしたり、カーブミラーで察知して停止して待つことが40分くらいの間で、5回もあった。
やっと道がなだらかになって、間もなく大鹿村の鹿塩温泉。5部屋の小さな宿だが、僕だけしかいないようで貸切状態。当然風呂も1人でゆったり。
1200人足らずの人口で、鹿が2万頭以上いるというような主人の話を聞きながら、飲みながらゆったりと食事をする。鹿の料理も出たが、いくら獲っても追いつかないという。鯉に岩魚、そして蜂の子も出て、典型的な南信の食事だ。
絵にかいたような、秘湯への旅。
日本では「クルマ離れ」のように言われるが、クルマ好きにとってはとてもいい環境になってきている。ところが、その恩恵を受けているのはリタイアした人々だ。
「1000円高速」という政策があっていろいろ言われたけれど、あの頃から信州でも関西ナンバーが目立つようになった。いざ走ってみれば、近いし楽しいのだ。
1人で温泉の和室は久々だったが、そもそも1人で泊まれる宿は少なかった。最近は増えてきてネットで探せるが、日本の旅館は一人客を嫌ってきた。今でも、極端に割高だったり、はなからお断りの宿もある。
でも、一人旅はいいよ。
鉄道もいいけど、クルマの自由さは格別だ。この後、名古屋へ出て、結局4日で1万キロ以上走ったけど、まだまだ走ってみたい。早く、春が来てほしい。